クルマから始まった再出発 ――子どものひと言がひらいた、人生のご縁
今回ご紹介するのは、『暮らしとくるま』のInstagramフォロワーbocchienjoyさん。鹿児島県で小さな雑貨店を営みながら、トヨタ ハイエースやトヨタ ピクシスバンで車中泊やくるまカフェを楽しむ暮らしを、SNSで発信されています。過去に一度、止まってしまった旅。その再出発のきっかけになったのは、クルマという“自分の好きで満たせる空間”でした。車中泊を通して見つめ直した人生のモットー、そしてその先に生まれた新たな挑戦について、お話を伺いました。
目次
好きだった車中泊と、立ち止まった時間
―車中泊を楽しまれていますが、始めたきっかけを教えてください。
もともとクルマ旅が好きで、昔から家族と一緒に車中泊をしていました。でも、夫が突然亡くなってしまって……。その後は息子と娘の子育てに必死で、母親だけでなく父親の役割もこなさなければならない日々でした。そして気がつけば、好きだった車中泊からも遠ざかっていました。そのころは、“もう旅はしないのかもしれない”と思っていましたね。
―そこから、再び車中泊を始めようと思えたのは、どんなタイミングだったのでしょうか。
子どもたちが成長して、息子夫婦と同居することが決まったときです。
そのとき、息子が“また好きなこと、車中泊を始めたら?”と提案してくれたんです。これまで私が走り続けてきた姿を、一番近くで見ていてくれたからこその言葉だったのかもしれません。そのひと言で、もう一度やってみようかなと思えました。
クルマだったから、踏み出せた一歩
―車中泊を再開したとき、気持ちはいかがでしたか?
実は、車中泊を再開する前に、パニック障害を抱えてしまって。MRI検査をきっかけに、電車や飛行機などすぐに外へ出られない閉ざされた空間が怖くなってしまったんです。だから車中泊をやろうと思ったときは、好きなことをまたできるといううれしさがある一方で、不安もありました。
―それはとても大変でしたね。そんな中で、車中泊を再び“やってみよう”と思えた理由は何だったのでしょう。
“クルマなら止まれるし、外にも出られる”と思えたのが大きかったです。最初は、クルマの中で雨が降り出したときに発症してしまったり、トンネルで苦しくなってしまったり……。それでも少しずつ、クルマ旅の経験を重ねていきました。
―無理をせず、少しずつ成功体験を重ねてこられたんですね。続けていく中で、どんな変化を感じましたか?
徐々に慣れていくことができて、今ではフェリーに乗るのも大好きになりました。
フェリーで北海道へ、33泊の大冒険に
飛行機はまだ難しいですが、“できた”という小さな実感の積み重ねが、自信へと変わっていったのだと思います。
クルマは心を整える場所
―写真からも伝わってきますが、車内がとても心地よさそうですね。どんなところを大切にされていますか?
ありがとうございます。お気に入りはお友達につくってもらった格子窓です。そこに白いレースカーテンを取り付けて、お気に入りの雑貨を飾っています。
窓から外の景色を眺めながらカフェタイム
私、子どものころからずっとかわいいものや、雑貨が大好きなんですよ。だから、クルマの中を、自分のお気に入りで満たしたいんです。
車内には、旅の道中やお店巡りで出会った雑貨を飾っています。ひとつひとつに想い出が詰まっていて、車内を眺めるたびに記憶がよみがえって、ついしんみりしてしまいますね。
棚や内装の一部は息子さんや娘婿さんの手づくりだそう
―車中泊とはまた少し違う、「くるまカフェ」には、どんな魅力がありますか?
自宅から近場で、気軽にきれいな景色を眺めながらお気に入りの車内で“何も考えない時間”を過ごせることですね。夕日が見える場所や、桜島を眺められる場所でのんびりしながら、本を読んだり、タブレットで映画を見たり、丁寧に淹れたコーヒーを味わったりしています。
クルマの中で過ごす静かな時間は、心が洗われるような感覚になります。そんな時間を、私は“命の洗濯”と呼んでいます。くるまカフェで気分をリフレッシュして心を整えると、“また明日からがんばろう”って、自然に思えるんです。
―くるまカフェの時間が、明日への活力になっているんですね。
カーライフを通して気づいた、人生のモットー
―くるまカフェ中に本や映画を見られるとのことですが、印象に残っている本や映画、フレーズなどはありますか?
エッセイが好きで、特に樹木希林さんの「おごらず、人と比べず、面白がって、平気に生きればいい」という言葉が、すごく心に残っています。
―どんなところに共感されたのでしょうか。
私は負けず嫌いなところがあるので、SNSをやっていると、人と自分を比べて落ち込んでしまったり、逆に褒められて、調子に乗ってしまいそうになったりすることもあります。だからこそ、絶えずこの言葉を自分自身に言い聞かせて、日々を過ごしています。人の目を気にせず、自分の人生を生きたいと思うようになりました。
また、夫のこともあって、“明日があるとは限らない”ということを実感するようになったんです。だからこそ、“今を大切に生きたい”と思っていて、“面白がって、平気に生きる”というこの言葉がより深く刺さっているのかもしれません。
―すてきな人生のモットーですね。
車中泊の旅から生まれた、新たな挑戦
―雑貨屋さんを始められたと伺いました。オープンにはどんな経緯があったんですか?
2025年3月、娘の自宅の庭の一角で『お留守な雑貨屋』というお店を開きました。
車中泊で使える雑貨やランタン、割れない食器などが並ぶ
旅の途中で、雑貨屋さんを巡るのが好きで、“いつか雑貨屋さんをやってみたい”と思っていたときに、娘が「うちでお店をやらない?」と声をかけてくれました。子どもたちが、それぞれの形で、私の人生を応援してくれているんだと感じました。
―お店を始めて、何か変化はありましたか?
今までは、私が旅に出て、たくさんの人と出会ってきました。
でも、雑貨屋をオープンしたことで、旅先で出会った人たちが、今度は私のところに会いに来てくださるようになりました。そして、そのつながりが、何十人もの輪に広がり、仲間が増えていったんです。
―これから、『お留守な雑貨屋』をどんな存在にしていきたいですか?
年齢的に、いつか旅に出られなくなる日が来るかもしれません。
でも、このお店にみんなが集まって、つながる居場所になったら嬉しいですね。
車中泊で広がった仲間の輪
行動した先に広がった、新しい居場所
“おごらず、人と比べず、面白がって、平気に生きればいい”——その言葉を胸に、bocchienjoyさんは、日々を前向きに走り続けてきました。そんな姿を見ていた子どもたちの言葉や後押しが、人生をもう一度ひらくきっかけになったのかもしれません。
「車中泊を再開していなければ、ここまで楽しい人生にはなっていませんでした。何よりたくさんの人とつながって、いろいろな人生を見たり聴いたりすることで得られるものが一番の楽しみです」と語るbocchienjoyさん。車中泊を再開するという一歩は、止まっていた時間を動かし、心を整え、人とのご縁をつなぎ、やがて人が集まる居場所へと広がっていきました。
クルマから始まった人生の再出発は、今日も静かに、でもたしかに、bocchienjoyさんの人生を前へと進めています。
取材協力・写真提供いただいたInstagramフォロワーさん:bocchienjoyさん
